1970年以降,大都市圏の気温が大幅に上昇しつつあり,いわゆるヒートアイランド現象が問題となっている.ヒートアイランド現象は建築物の空調エネルギー需要に影響をもたらすとともに,建築物の空調廃熱が都市気温を上昇させたり,一方,建築物に導入した高反射高放射塗料が都市気温を下降させたりする.このように都市環境と建築環境は相互に密接な関係を持っており,都市のヒートアイランド評価だけではなく,建築におけるCO2排出削減策の評価においても,両者を総合的に評価する必要がある.
本稿では,高反射高放射塗料を建築物に導入した際のCO2排出削減量の評価を次の手順でおこなった.
まず,ヒートアイランドシミュレーションをおこなう上で,地表面物性値のうち,アルベドと射出率を衛星データを用い,従来の文献値よりも正確と思われる値を得た.この物性値および計測実験で得た塗料の短波反射率・長波放射率をメソスケールモデルに代入して,塗料を導入した場合の気温低下幅を冬期・中間期・夏期別に算出した.
次に,EA気象データに対して気温低下幅を適用して都市気温データを作成した.そして,動的熱負荷シミュレーションモデルを用いて,現状ケース,塗料導入ケース,都市気温+塗料導入ケースの3ケースについて,冷暖房需要およびCO2排出量を算出した.
その結果,建築物単独評価では,塗料による夏期の冷房需要削減率は11.0%に過ぎなかったが,都市気温の低下を考慮すると,16.5%に上ることが分かった.同様に,CO2排出量に関しても,0.7%削減ではなく,2.2%削減に達することが分かった.
このように高反射高放射塗料のような技術を評価する際には,都市環境の影響も考慮する必要があると考えられる.なお,今回用いた都市→建築の単方向接続に用いた手法は未完成であり,今後,より現実を反映した接続手法を検討していく予定である.