不明な点があれば、井原までどうぞ。E-mail(ihara-t/aist.go.jp)でも、また、直接来ていただいても(工学部4号館228研究室)構いません。
質問は、[Q1]〜[Q25]の計25問でした。
今回、ヒートアイランドシミュレーションモデルを採り上げた理由について、研究の目的と合わせて説明して欲しい。
建築環境をシミュレートする場合、一般に建築非定常熱負荷計算が使用されるのに対し、都市環境をシミュレートする際には、一般にメソスケールあるいは都市キャニオン空間の熱環境シミュレーションモデルが用いられます。ヒートアイランドシミュレーションモデルは、都市熱環境シミュレーションモデルの代表例です。
さて、スライド4で説明した通り、建築環境と都市環境とは密接な関係にあり、建築物へのCO2排出削減方策を評価するには、場合によっては都市環境も考慮する必要があります。これまでの研究では、建築環境のみの計算で、CO2排出削減方策を評価してきましたが、今後は、都市環境をも考慮していこうと考え、今回は、都市環境評価モデルであるヒートアイランドシミュレーションモデルについて触れました。
なお、実際に、都市環境を考慮しない場合とした場合とでは結果が変わってきます。計算結果に関しては、スライド36-38をご覧ください(発表に間に合わなかった計算結果も追加してあります)。
次の用語(スライド19)について説明して欲しい。
アルベド(albedo)とは、地表面において日射がどれだけ反射するかという値です。物質表面における短波反射率に相当します。全反射する場合が1、全く反射しない場合が0です。今回のシミュレーション計算のうち、「高アルベド化」ケースに関しては、高反射高放射塗料の短波反射率を、そのままヒートアイランドシミュレーションモデルにおけるアルベド値としています。
射出率(黒体度)とは、地表面がどれだけ熱を射出するかという値です。物質表面における長波放射率に相当します。黒体放射の場合(完全黒体)が1、全く放射しない場合が0です。今回のシミュレーション計算のうち、「高アルベド化」ケースに関しては、高反射高放射塗料の長波放射率を、そのままヒートアイランドシミュレーションモデルにおける射出率値としています。
粗度長とは、地表面の粗度を表す値で、接地層の風速に影響します。単位は[m]です。接地層において、地表面に近づくほど空気抵抗が働くため風速Uは小さくなり、地表面そのものz = 0ではU = 0となります。しかし、地表面にビルが林立していたりあるいは果樹園があったりして、地表面の凹凸が大きいと、それだけ空気抵抗が働きやすくなり、z = 0ではなく、z = z0(z0 > 0)で、U = 0となってしまいます。そのときのz0を粗度長と定義します。
大気境界層の風の流れはどのようになっているのか?
河川や湖、池などの都市中の水流および温度差による風の道(特に河川)の影響は、計算式のどこに反映されているのか? 大気境界層(スライド12)の水蒸気輸送方程式で計算されているのか?
大気境界層における風の流れに関しては、スライド9-12に説明した一連の大気境界層の6つの基礎方程式により記述されています。u, v, wがそれぞれx, y, z軸方向の風速です。境界条件に関してはスライド18の通りです。大気境界層(地上1-2[km]程度)のうち、地上100[m]程度までを接地層、またそれより上の部分をEkman層と呼びますが、両者とも運動方程式など基礎方程式は同じでも、運動方程式中にある乱流粘性係数KVmは全く別の数式により記述されており、接地層では地表面の影響が濃く出るようになっています。なお、実際の大気境界層の風の流れの計算結果については整理中ですので、次回に説明したいと思います。
風そのものは、陸と海の温度差によって生じますが、その際、どこに風が通るのかは、地表面の粗度に影響されます。河川やビルの谷間などに実際に風が通るわけですが、現在用いているモデルでは、粗度長を用いておらず、またメッシュも2kmと荒いので、「風の道」という細かい現象を考慮するに至っていません。なお、河川や池などによる蒸発潜熱の影響は、蒸発効率というパラメータを上げることによって、現在のモデルでも考慮されていますが、メッシュの大きさの関係上、水辺そのものもメッシュの一部となってしまっており、細かな水辺の影響は再現されていません。
境界において、パラメータの微分値をゼロと設定しているが、その意味合いを教えて欲しい。
境界条件として現実の風を設定すれば、比較的簡単に、現実に適合したシミュレーションをおこなえるのではないか?
パラメータの微分値がゼロというのは、パラメータの変化量が0という意味合いです。例えば、上部境界において∂u/∂z = ∂v/∂z = 0(スライド18)というのは、上部境界付近では、x, y方向の風速u, vはほとんど変化しない、ということになります。
このような境界条件を現実データを元に適当に設定することで、確かに現実に適合したシミュレーションをおこなえそうですが、それには毎分の気象データが必要となってきます。またあまりに狭い範囲内で、広域気象データと接続してしまうと、都区内の気象は、区域内の対策ではなく、むしろ気象データ次第ということになってしまいそうです。そのあたりについてはもう少し検討してみたいと思います。
台風の後もかーっと暑くなることと、急に涼しくなることがあるが、何故か?
<現在、回答を作成中です。暫くお待ちください。>
助走期間後、どうして定常解になるのか? 日が変わるのに定常状態になるのは不思議に思う。
解の安定性についてだが、安定するものなのか? 安定するとは思えないが……。
解の周期定常性の問題は、研究室内で過去から議論されているが、解決されていないと思う。
解が安定しないという問題点を挙げていたが、今後どのようにして安定させるのか?
地表面風速が弱いため、顕熱輸送や潜熱輸送が減少し、その結果、解が安定しないのではないだろうか?
土中への熱伝導が増加している原因として考えられることは何か?
まず、解の周期定常性(スライド22-23)について説明します。
ヒートアイランドシミュレーションに限らず、このような動的シミュレーションにおいては、シミュレーション開始直後においては初期条件の影響が出てしまうため、影響が出てしまう部分を切り捨てて、残りの計算結果を正しい結果とする必要があります。
しかし、どの部分を初期値の影響として切り捨てればいいか、という問題が出てきます。今回の場合、その判断は容易で、毎日の気温変化が昨日とも明日とも変わらないようになった時点です。何故ならば、本モデルでは、毎時刻の外部入力として、日射量(理論計算)および人工排熱を与えていますが、日射量は、毎日快晴と仮定しているためほとんど変化せず、人工排熱は毎日同じデータを用いるようにしているため、入力データは変わりません。実際の気象において、入力データが変化しない(周期的に変化する)場合、出力データ(気温)も変化しない(同じ周期で変化する)と想像されるので、気象をうまく再現できているモデルならば、シミュレーション後暫く経てば、全く同じ気温変化が1日ごとに繰り返されるようになるはずだからです。
さて、現在うまく再現できていない問題についてですが、
の2つが考えられます。土中への熱伝導にしろ、顕熱輸送・潜熱輸送にしろ、まだ原因が理解できるほど、モデルを理解できていないので、もう少し勉強してから原因を探りたいと思います。ただし、コメントにもありますように、過去から研究室で問題となり、解決していないという可能性もありますので、無理の場合は、この作業は適度な所で打ち切る予定です。
解の精度の検証はどのようにするのか?
ヒートアイランドのシミュレーション結果をきちんと出すとどうなるのか楽しみに思う。
解の周期定常性を確認した後、実気温との比較をおこない、解の精度を検証する予定です。実気温データとしては、過去に観測された8月上旬の快晴時の気温データを用いる予定です。その後、対策技術の評価のためのシミュレーションをおこなう予定です。
東京、新木場、相模原、世田谷(スライド24-27)での温度減少の要因は何か? 温度が高いと減少幅が大きいような感じを受けるが。イメージ的には緑が多いところは高アルベドの効果が薄いのでは?と思うが。
「高アルベド化」のシミュレーションでは、建築物に高反射高放射塗料を導入したケースについて評価しているので、建物用地が多い所ほど効果的で、風を考慮しなければ、それ以外の要素には影響されないはずです。ですので、密集地である東京の方が、緑の多い相模原よりも温度減少幅が大きくなるはずなのですが、そうはなりませんでした。相模原は気温も温度減少幅が大きいだけではなく、気温も異常に高いので、境界設定の問題という可能性もあり、今後原因を探っていく予定です。
ヒートアイランドシミュレーションの影響を、オフィスビルなどの冷暖房需要にどう接続するのかなど、一工夫いると思う(今回は、気温を下げすぎたらしいが)。
都市環境と建築環境の相互作用計算は、何回くらい繰り返し計算する必要があるのか?
今回の発表の最終的な主眼は、建築環境との相互作用(スライド4)にあると思うが、都市環境モデルと建築環境モデルについて交互に計算したとして、解が収束するのだろうか?、という疑問がある。懲りすぎると際限がなくなると思う。
今回は、メソスケールモデルで得られた気温低下幅(スライド30)を、EA気象データの気温から引き、それを建築環境モデルの気温入力値としました(冬期=2月・中間期=5月・夏期=8月別に)(スライド34)。しかし、メソスケールモデルで得られる気温低下幅は快晴時のもので、実際の気象は快晴でないことの方が多いので、得られた気温低下幅を年間にわたって適用するのは、過大評価だと考えています。そのため、今度同様の計算をおこなう際は、日射量と気温低下幅の関係性を求め、それを考慮して、建築環境モデルに提供しようと考えています。
なお、メソスケールモデルと建築環境モデルとの間での収束計算についてですが、今のところ、数回未満で済むと考えています。おっしゃる通り、収束する理論的な保証はないのですが、経験的にいけるのでは?、と考えています。ただし、確かに収束しないかもしれません。その場合は、適度な所で打ち切り、最終的な結果はまた別の方法で算出する予定です。
夏場は、平均気温の上昇のみならず、最高気温も上昇しているが、それについて建築環境への影響はあるのだろうか? 例えば、断熱などでエンタルピーを計算したり、冷房空調設定を決めていたりすると、必要能力も変わってくるのではないかと思う。
熱源機器には、冷却塔やヒートポンプなど外部気象条件に影響されるものも少なくなく、実際、亀卦川[A]は、外部気象条件とCOP/効率を考慮して、メソスケール数値気象モデル(MM)-街区スケール数値気象モデル(CM)-ビルエネルギー・廃熱解析モデル(BEM)を接続しています。本研究でも、そのような試みを導入したいと思っています。他にも、メソスケールモデルのパラメータと関連しそうな要素があれば教えて頂けると幸いです。
地表面境界の問題は、キャノピーモデルが作れれば、解決するのか?
建築物への都市気温の影響を判断するには、メソスケールモデルの最下部層の気温ではなく、キャニオン空間の気温を用いないと、つらいと思う。
東京のようなビルが密集した都市街区のことを「都市キャニオン空間」(キャニオンとは渓谷の意味)や「都市キャノピー空間」(キャノピーとは天蓋の意味)と呼びます。都市キャニオン空間は、メソスケールとはまた別のメカニズムで気温や風などが定まっているため、コメントの通り、建築物への都市気温の影響を正しく評価するには、そのようなモデルが必要となってきますし、地表面の風の値も正しく算出できるようになると思います。
なお、都市キャニオンモデルとしては、1次元モデルと3次元モデルがあり、1次元モデルとしては、近藤ら[B]が開発したモデルがメソスケールモデルと容易に接続できそうです。ただし、都市キャニオンモデルは、メソスケールモデルや建築熱負荷モデルとは異なって、実測値の検証がまだおこなわれておらず、果たして単純なモデルで、現実の都市キャニオンを再現できているのか、という問題もあります。
どういったモデルを組み込むか、あるいは組み込む必要はないのか、については、相田君と相談の上、決めたいと考えています。
建築物への技術導入の影響について。限界的な導入に関して、1建築物のみに導入したと考えるのはよいと思うが、広範な導入に関して、都市全体に導入したと考えるのは行き過ぎではないだろうか? 現実には、法的に強制されでもしない限り、特定の技術がすべての建築物に導入されるようなことはないと考える。
御指摘有り難うございます。限界導入/全導入の2種類しか考えておらず、そういった視点が抜けていました。今後、評価をおこなう際は、導入割合も考慮しながら結果を算出したいと思います。また、塗料の他に緑化や太陽電池が導入される可能性もありますので、そういった他技術の導入が、塗料にどのような影響をもたらすか、ということについても考えていく予定です。
電力中央研究所の事務所新築モデルビルを採用した理由は何か? これは住宅の標準問題のようなものとして一般的に扱われているものなのか。
従来のシミュレーションでは、住宅に関しては「住宅用標準問題」(木造)[C]、オフィスビルに関しては「オフィス用標準問題」[D]を用いてきました。いずれも1985年に日本建築学会環境工学委員会が提唱したモデルです。
しかし、両者とも1985年と古く、特に、「オフィス用標準問題」に関しては、1985年と現在とでは、週休2日制の導入、OA化の進展、ビルの高層化など、状況が大きく変わってきてしまっているため、現実のモデルをシミュレートするとして、標準モデルを「オフィス用標準問題」とするのは、不適切かと考えました。
今回採用した「事務所新築モデルビル」(中規模)[E](スライド32-33)は、1996年に電力中央研究所の有識者会議で作成したものであり、1990年代前半に建設された実際のビルの統計データをもとに、標準的と思われるモデルを作成したものです。週休2日制の導入、OA化の進展、ビルの高層化のいずれも考慮されており、モデルも小規模・中規模・大規模と3種類用意されています。OA化に関しては、2002年現在とはまた状況が異なってしまっている可能性がありますが、自分で一般的と判断した上で、今後、利用していくことにしました。ただし、このモデルは学会ではなく1研究所が作成したモデルですので、現時点では、一般的に広く扱われているとは言い難いようです。
計測実験ではどのようなデータが得られるのか?
実際の気象によって、高反射高放射塗料の物性値がどのように変化するか(主に短波反射率や長波放射率の劣化)を見る予定です。直接の計測データとしては、日射量などの気象条件ならびに室温などの試験体条件があります。