不明な点があれば、井原までどうぞ。E-mail(ihara-t/aist.go.jp)でも、また、直接来ていただいても(工学部4号館228研究室)構いません。
質問は、[Q1]〜[Q11]の計11問でした。
長期屋外暴露による物性変化は何によるのか?
汚れというのはどのようなものか?
塗料の反射率劣化は、二階堂ら[A]が指摘しているように、汚れによっておこると考えています。汚れは大気中の汚濁物質によりもたらされると考えられ、よって都心部の方が反射率の劣化を招きやすいと考えます。
塗料の効果が汚れによって低下していくということだが、表面を拭けば元に戻るのか?
反射率の経時変化を示したグラフ(スライド20)では、反射率が上昇しているところが見られるが、ここでは、実際に降雨があったのか? 逆に、降雨により表面が汚れることもあるのでは、と考えるが。
今回示したグラフで見られる反射率経時変化の凹凸は、直達日射量が少ないため反射率が正常に計測できなかったことによるものと考えています。グラフ中、反射率の経時変化に合わせて、短波入射量および短波反射量の推移も示したのはそのためです。
前述した通り、塗料の反射率劣化は汚れによっておこるため、表面を清掃すればかなり回復すると考えられます。ただし、実際に建築物屋上面に塗料を導入した場合、清掃がおこなわれることはないと思われます。
なお、降雨により汚れが回復することも、かえって汚れが悪化することもともに考えられますが、この現象について定量的に示した実験結果はなく、今後、その点についても解析していく予定です。
劣化の分析期間は4か月程度だが、それ以上長期にわたる暴露に関しても解析すべきではないだろうか?
長期暴露の解析は12-4月にわたる計測で十分なのか?
物性値の変化が気温・降水量などに影響されるのならば、季節によって計測される物性値も変わってくると思う。12-4月のデータだけでは、経時変化が原因なのか、それとも季節変化が原因なのか、判断できないのではないだろうか?
高反射高放射塗料の暴露試験に関しては、二階堂ら[A]が箱形試験体の上部水平面日射反射率の400日超にわたる経時変化を示しています(図A.1)。二階堂らの実験結果によると、屋外暴露日数の経過とともに塗装面に汚れが付着し、低下する傾向が見られます。ただし、日射反射率は一方的に低下するわけではなく、汚れが雨により洗い流されることにより上昇も観測されています。
図A.1 塗料の屋外曝露実験(鹿島)
二階堂らの実験結果に降雨が定期的に起こることを考慮して、長期的な変化をグラフで示すと、図A.2のような経時変化がおこるものと考えられます。
図A.2 経時変化の予想される傾向
本研究では、図A.2のような経時変化の傾向が確認できた時点で、実験結果を実際のシミュレーションに用いたいと考えております。ただし、本研究でおこなわれている計測は、
などの点が二階堂らと異なるので、計測そのものは今後も引き続きおこなっていく予定です。
汚れなどによる物性変化を防ぐため、高反射高放射塗料の上に光触媒塗料を塗り重ねるというのは技術的に可能なのか? それとも、上に塗ると、反射率や放射率に影響してしまうのか?
日射反射率や長波放射率は物体の最外側表面に影響を受けるので、日射(短波)や赤外放射(長波)に対して透過的な塗料でないと、高反射高放射塗料の効果を打ち消してしまいます。なお、本研究で用いている高反射高放射塗料は、反射率劣化対策がとられているため、通常塗料よりも反射率が劣化しにくいことが二階堂らによって示されています。
課題で挙げた塗料の劣化の感度は興味深いと思う。例えば反射率が0.6程度になった場合、CO2排出量はどう変化するのか?
CO2排出量がどう変化するかは、対象建築物のもともとの冷暖房量によってくるので一概にいえませんが、塗料の導入によって、冷房期のCO2排出量は減少し、暖房期のCO2排出量は増加すると思います。そして、通常外壁の反射率は0.2、今回採り上げた高反射塗料の反射率は0.9程度ですので、0.6だとその中間程度になるかと思います。
反射率とCO2排出削減効果の感度分析に関しては興味深いですので、今後、検討していきたいと考えています。
実測の状況をどのようにモデルに反映させているのか? 従来、住宅やオフィスビルなど複雑な建築物を対象とした非定常熱負荷計算プログラムを開発していたが、それをそのまま今回の計測に対応させているのか?
既に開発したプログラムは、室・壁体・発熱源などに関して自由に変更できるように改良したため、今回のような極めて単純な箱形試験体から、住宅のようにさまざまな発熱源が独自のスケジュールで発熱する多数室建築物まで、広く対応しています。
今回の検証では、建築物を1個の室と6枚の壁体から構成されると考え、それ以外のものに関してはいっさい入力していません。
実測値より計算値の方が温度振幅の変化が小さいのは、
などの原因が考えられるが、その原因の追及はおこなっているのか?
今回の検証は、まだ試行錯誤の段階です。合わない原因として考えられる要素として、室内熱容量や壁体熱伝導率の設定の違いが考えられますが、これらに関しては既に調査済みで、ほかの要因によるものと考えています。たとえば外気側表面熱伝達率が昼夜で異なり、そのために食い違ってしまっているという可能性はありますが、これらに関しては今後解析を進めていく中で考えていく予定です。
なお、松尾らの研究[B]ではSMASHを用いた実測値との比較検証をおこないましたが、その際にも実測値と計算値のずれについて追及をおこなっています。外気側表面熱伝達率の設定を若干大きめにしたところ、実測値により近くなりましたが、他の要素に関しては影響が見られませんでした。なお、外気側表面熱伝達率に関しても過度に大きくすると、逆に室内温度の振幅が小さくなってしまうようでした。
実験でも塗料を塗装した場合と塗装していない場合で、塗装した方が確かに室温が低下していることを確認できる対照実験ができればいいのかな、と思う。