不明な点があれば、井原までどうぞ。E-mail(ihara-t/aist.go.jp)でも、また、直接来ていただいても(工学部4号館228研究室)構いません。
質問は、[Q1]〜[Q28]の計28問でした。
塗料を塗ることにより、“光公害”が発生する恐れがあるが、どれほど眩しいのか?
定量的なデータはありませんが、過去、都内の某ビルに反射率の高い塗料を塗装したところ、眩しさのため、塗り替えとなったことがあるそうです。
塗料の色にはどのようなものがあるのか。
塗料の色は限定されるのか。
また、建築外表面が景観に与える影響はどのように考えているのか?
紫外線を積極的に吸収することはできるのか?
これに関しては不明です。長島特殊塗料は、可視光・近赤外光域において、反射を制御する特許を保有していると思うので、紫外線については無理ではないでしょうか? なお、ただ単に紫外線を吸収するならば黒色ペイントが有効だと思います。
低反射低放射塗料の開発・研究がなされていないとのことだが、何故か?
ひとつは、部材の問題があると思います。現在、世に出回っている光低反射熱低放射性の物質は、いずれもメッキ形態でしか物体表面に接着させる手段がなく、塗料に向かないと考えられます。
もうひとつ、有用性の問題があると思います。冷房需要を削減できる高反射高放射塗料と違い、暖房需要を削減するには断熱材を追加的に導入すればよいからです。もちろん、断熱材が導入できない場合には有用ですが、これらの点について考慮している人は少ないのではないでしょうか?
面積あたりでの計算結果を示していますが、結局は合計の削減量が問題となってくるので、総面積あたりの計算結果の方が分かりやすい。また、屋根の方が外壁より削減効率がよいというのは直感的に分かることだと思う。
削減量という観点から見ると確かにその通りですが、導入面積あたりの冷暖房需要増減量を算出したのは、CO2排出削減単価を求める場合に必要となるためです。
参考までに、各部位に導入した場合の冷暖房需要増減量(総量)を図A.1として示しておきます。
図A.1 導入部位による冷暖房需要の差異(標準ケースとの増減)
部位ごとに最適な外表面を設定する(組み合わせる)と、どのようになるのか? 外表面の切り替え案に比べて現実的な案となると思う。
その通りだと思います。プログラムの高速化が完了次第、さまざまな導入パターンについてシミュレーションをおこなう予定です。
東京(東京都)の標準年の気象データを用いているが、切り替えを要せずに高反射高放射塗料が有利になるような気象条件を持つ都市は存在するのか?
地域による気象条件の差異を考慮し、低緯度地域では高反射高放射塗料、高緯度地域では低反射低放射性外表面を用いるようにすれば、切り替え機構を用いなくてもCO2排出量の削減を見込めると思うが、如何か?
昨年11月に、住宅用標準問題に関して東京以外に那覇に関してもシミュレーションをおこないました(2001/11/13の打ち合わせ資料参照)。そのところ、那覇では通年で塗料を用いた方がよいようです。逆に、低反射低放射性外表面に関しては、逆に札幌などでシミュレーションをおこなうとよさそうです。今後、検討していきます。
参考までに、昨年11月の東京および那覇の結果を図A.2として掲載します。那覇では、暖房需要がきわめて少ないため、高反射高放射塗料を通年で用いた場合が、一番CO2排出削減効果が大きくなるのが分かると思います。なお、現在とはプログラムの詳細が若干異なるため、現在のシミュレーション結果と必ずしも一致するとはいえませんが、傾向は同じのはずです。
図A.2 CO2排出削減量(左:東京 / 右:那覇)
外表面を切り替えないとある程度の削減効果が見込めないのは難点だと思う。衣替えのように壁紙(外表面)を切り替えるのか?
空気層が発生しないようにシートを密着させるということは、壁紙のようなものを想定しているのか?
切り替え案として、それが一番現実的な案かと思い、説明しました。具体策に関してはまだ目処が立っていません。
切り替え手法として、図A.3のように、季節間の太陽高度の差異を利用するものはどうか?
図A.3 季節間の太陽高度の変化を利用した建築外表面の切り替え
大変、興味深いと思います。今後、検討してみます。
昔の断熱材はフロンを用いていたと聞いた。最近の断熱材はフロンを用いていないと思うが、建築物に導入されている断熱材の種類によって、高反射高放射塗料の効果が変化したりしないのか?
材質が異なる断熱材でも熱伝導率および容積比熱が同じであれば、高反射高放射塗料の効果は変わりません。
ちなみに、断熱材[B]は、発泡プラスチック系(押出ポリスチレン、硬質ウレタンボードなど)と繊維系(グラスウール、ロックウールなど)に大別されます。発泡プラスチック系の方が断熱性能が高く(表A.1参照)、同じ断熱性能を達成するのに必要な厚さは、繊維系の1/2〜2/3程度で済みます。フロンを用いて発泡させるものがほとんどですが、ビーズ発泡ポリスチレン板のようなノンフロン断熱材も存在します。
断熱材の普及率はよく聞くが、通気層の普及率はどのようになっているのか? また、通気層は断熱材に置換して考えると、どの程度の断熱性が見込めるのか?
ご指摘の通り、住宅の断熱化率の推移に関しては調査がおこなわれています[C,D]。
さて、通気層に関してですが、これは工法[E,F,G]によってさまざまな考え方があるようです。
最も一般的な通気工法(構法)と思われるのは、外断熱住宅に施工する工法であり、壁体を外壁・通気層・プラスチック系断熱材・内装材の順に仕上げます。こうすることにより、室内から内装材を経由して断熱材に侵入した湿気を、通気層から逃がしてやることができ、断熱材や外壁の劣化を防ぐことができます。断熱効果については断熱材とは比べものにならないほど小さく、断熱材としての役割は望めません。
材 | 熱伝導率 [W/mK] | 50[mm]時の熱抵抗 [m2K/W] |
---|---|---|
グラスウール(24K) | 0.0419 | 1.19 |
グラスウール(32K) | 0.0395 | 1.26 |
スチレン発泡板(ビーズ) | 0.0256 | 1.07 |
スチレン発泡板(フロン発泡) | 0.0256 | 1.79 |
硬質ウレタン発泡板 | 0.0279 | 1.72 |
非密閉中空層 | - | 0.0688 |
密閉中空層 | - | 0.138 |
ただし、屋根面に関しては、通気層が断熱効果をもたらしているようです。日射により屋根面が暖められますが、それにより通気層の空気が暖められ、自然に上昇気流となって、煙突から熱を持って逃げていくようです。おこなっているようです。最も一般的な通気工法(構法)と思われるのは、外断熱住宅に施工する工法であり、壁体を外壁・通気層・プラスチック系断熱材・内装材の順に仕上げます。こうすることにより、室内から内装材を経由して断熱材に侵入した湿気を、通気層から逃がしてやることができ、断熱材や外壁の劣化を防ぐことができます。断熱効果については断熱材とは比べものにならないほど小さく、断熱材としての役割は望めません。
以上が外断熱の場合ですが、内断熱工法でも通気工法を取り入れる場合があるようです。また、ソーラーサーキット工法[I]・エアサイクルシステム[J]のように、通気層を積極的に用いることで、パッシブな排熱・排気およぶ通風、あるいは冷暖気の伝達をおこなう仕組みを用いているところもあるようです。
高反射高放射塗料と白色ペイントの差異がよく分からない。経済性のみ考慮すれば、(高価な高反射高放射塗料ではなく)グレイのペイントが望ましいのでは?
特定の波長領域の光のみを反射できる塗料があるのを知らなかった。それほど高価ではなければ検討する価値があると思う。
高反射高放射塗料や低反射低放射性外表面の導入は、コストの面でプラスになりうるのか?
経済性に関しては下の方の経済性評価に関するAを参照してください。
塗料コストに関してですが、確かに高反射高放射塗料は通常塗料より高価であると考えられます。ただし、どの製品に関しても、開発して間もないがために効果になっていると考えられます。
なお、たとえば、KDエコクールの場合、通常の白色塗料より反射率が高いという性能があります。また、可視光線より波長の長い赤外線領域を反射せしめる特許技術を保有している長島特殊塗料によれば、黒色が入ったくすんだ色ほど、反射率を上げられるようです。高価ですが、通常塗料と同色のまま、反射率を上げて何らかの対策となりうるのならば、導入してもよいのではないかと思います。
塗装業界にとってはよい提案だが、導入コストを考えると太陽電池のように補助金が必要になる。経済性を考慮すると、ヒートアイランド対策にも有効となるオフィスビルへの導入を重要視するべきだと思う。
確かにその通りですね。仮に建築物に導入した場合のCO2排出削減単価が高いとしても、同時にヒートアイランド対策にもなるので、その点も考慮すれば、多少高くても導入できそうです。特にヒートアイランドが問題となっている地域には、オフィスビルの方が多いので、オフィスビルを優先して考えていきたいと思います。
実際に経済性評価をおこなうと、どのようになるのか?
住宅に関しては、昨年11月に説明した通りです。オフィスビルに関しては、今後の検討課題とさせてください。
建築物からの反射光によって、外気温度が上がるという現象は起こりえないのか?
太陽放射は、大半が、可視光域と近赤外光域の光線から構成されており、一方、地上放射は、赤外光域の光線から構成されています。大気を温めるのは、可視光域ではなく、赤外光域にある放射であるため、そのような現象は起こらないと考えています。
実験は、温度を測定して、シミュレーションとの整合性を考えるだけなのか? 表面温度が高くなる夏期に実験をおこなっても、モデルの検証に利用できるのか?
実際のオフィスビルや住宅とは、壁の厚さや断熱条件が異なるのに、モデルの検証に用いることができるのか? 実験装置が果たして妥当かどうかという問題が発生すると思う。
ペイントを塗装したときと塗装しないときとの比較が、実験の目的なのか? それとも他にも目的があるのか?
今回の実験の目的は、
の2つにあると考えています(後者については、次のAで説明します)。
実際の建築物と条件が違うとのことですが、熱伝導方程式に関する理論そのものはほぼ確立されたものであり、多少構造が違おうが、それぞれの物性値が明らかならば、同じようにシミュレーションモデルが利用可能であると、過去の実験結果(たとえば松尾ら[K])からも報告されています。また、高反射高放射塗料に関しては、近藤ら[L]や二階堂ら[M]も同じ手法で実験をおこなっています
ただし、今回の実験に関しては、実験物そのものの物性値を計測するという意味合いも含めて、まず始めに検証を目的とした実験をおこなう予定です。
塗料が剥がれ落ちる以外の原因、たとえば水滴や埃など汚れなどの影響で、反射率が低下することはあるのか? 個人住宅だと屋根を掃除するのは困難だと思うが。
埃などが付着することにより塗料の反射率および放射率が変化する可能性はあると考えています。過去には、二階堂ら[M]がKDエコクールについて鹿島技術研究所(東京都調布市)の屋上で実験をおこなった例があり、それによると、高反射高放射塗料だけではなくいずれの塗料も、10-20%程度、日射反射率が劣化するようです。
オフィスビルの場合、何故計算条件で空調設定温度を狭めているのか?
冷暖房の機器効率、機器のシェアの割合などの出典を教えて欲しい。
冷暖房機器のCOPについては、このくらいが常識的な値かと思い、適当に設定しました。
各機器のシェアに関しては、各機器の普及率[P]を利用して作成しました。
熱需要の詳細なデータベースを作成していきたい。
そうですね。僕も考えています。
何らかの技術や政策をシステムに導入した場合、その改善をシミュレーションなどを用いて定量的に測定する必要があります。その際、「標準的なシステム」というものを定めておけば、そのシステムに関する改善量を持って、標準的な改善量とすることができるはずです。
僕としては、建築物に関する標準モデルや標準的な需要スケジュールが欲しいですね。後者に関しては、さまざまな実熱需要データをもとに考えてみたいと思っています。
行列積の演算において、横方向のみ計算を高速化していて、縦方向についてはまだ考慮していないとのことだが、具体的に説明して欲しい。
行列積では、C = ABという数式が出てきます。A, Bともに疎行列である場合、4月に説明したような方法で計算量を削減することが出来ます。
しかし、現在のプログラムでは、横方向に関しては非零要素を抽出できるようにしてあるのですが、縦方向に関しては非零要素を抽出できるようにしてありません。そのため、C = ABという計算において、横方向に見ればよいAに関しては非零要素のみ計算できても、縦方向に見るBに関しては零要素まで計算するようになってしまっています。
縦方向に関しても非零要素のみを抽出して計算するようにするには、現在の疎行列ライブラリを抜本的に作成し直す必要があり、これは今後、取り組んでいく予定です。
ウェブで施工者が簡単かつ自由に入力でき、1分以内で、結果が出力されるようになると非常に便利だと思う。
究極的にはそのようなプログラムが開発したいですね。既に、ウェブを通して、施工主が設計するシステムは世に出ていますが、環境・エネルギーを考慮したものはないようです。在学中に実現できるかどうかは分かりませんが、そのようなプログラムの開発は、研究目標のひとつです。