不明な点があれば、井原までどうぞ。E-mail(ihara-t/aist.go.jp)でも、また、直接来ていただいても(工学部4号館228研究室)構いません。
質問は、[Q1]〜[Q15]の計15問でした。
壁体内部、軽量壁とは何か?
今回のシミュレーションモデルでは、建築物はNR個の室(R)とNW個の壁(W)から構成されるものとしています。なお、壁は重量壁と軽量壁に分けられます。以下の通りです。
壁体のうち、いわゆる壁を指す。NL個の厚さを持つ壁層(L)からなる。各壁層はそれぞれ熱容量Cと熱抵抗Rという熱的特性が設定されている。
壁体表面および壁層境界に熱点(P)を設定する。そのため、熱点数と壁層数はNP = NL+1という関係が成立する。
ガラス窓など熱容量のない壁体を指す。NL個の厚さを持たない壁層(L)からなる。壁層に熱容量・熱抵抗とも0であるが、壁層と壁層の間には空気層(La)が存在し、空気層は熱コンダクタンス(熱抵抗の逆数)を持つ。熱点(P)は、壁層中央に設定する。そのため、熱点数と壁層数、空気層数はNP = NL = NLa+1という関係が成立する。
なお、上記から分かるように熱点は次の箇所に設定しています。
今回のシミュレーションでは、オフィス用標準問題について熱点を2000個超だけ設定したとしているが、熱点は主にどのあたりに設定するのか。
熱点の設定方法によって結果が変わる可能性はあるのか? また今回の2000個というのは問題を解くのに十分な数なのか?
上記の質問に対する回答に書いたように、室および壁の各位置に設定します。ただし、壁は室に比べて圧倒的に多く、さらに壁は複数の壁層から構成されることがもっぱらであるため、熱点は壁層に集中します。たとえば、2000超設定したうち、30個程度が室であり、他は壁です。
今回は、壁に関しては、基本的に構成材料ごとに壁層に分割しました(ただし壁層の厚さは最大でも300[mm]以下にするため、地中部は同じ構成材料でもさらに分割しています)。差分法の場合、細かく分割すればするほど計算精度が上がりますが、とりあえず、今回程度の分割幅で十分ではないかと考えています。いずれ、さらに細かく分割した場合について計算をおこない、精度を比較する予定です。
塗料の効果は貫流熱負荷と大きく関係するので、壁体熱伝達に特に着目してシミュレーションモデルを構成したというのは分かるが、換気熱負荷も貫流熱負荷に劣らず大きな影響を建築物にもたらしていると思う。換気に関しては、どのように考慮され、どのくらいの影響があるのか?
換気についても、標準問題通りに設定しています。すなわち、各階の空調機室において1000[m3/h]の換気がおこなわれているとしています。また、隙間風は無視しています。
今回の問題では、換気量が小さく設定されているので、換気の影響は大きくないと思いますが、問題によっては、貫流熱負荷以上の影響があることも少なくないようです。
高反射高放射塗料の効果を見る場合、壁体熱伝達モデルのみ用いれば、室温や除去熱量の変化量は比較的容易に計算できると考えるが、そうではなく多数室室温モデルを用いて計算する理由について教えてほしい。
確かに、屋内が一様である建築物で、かつ空調がおこなわれていない場合は、壁体熱伝達モデルのみで室温はほとんど予測できると思います。
しかし、空調設定温度が存在すると、単純に予測はできなくなります。たとえば、26[℃]が上限温度の場合、28[℃]の室を25[℃]に冷やすくらいの対策と28[℃]を23[℃]に冷やす対策とで違いが出てこないからです。
また、建築物は全ての室が空調されているわけではなく、またこういった技術もたとえば屋上だけ導入するといったことがありえます。その場合は、室ごとに熱的状態がかなり変わってくるので、このような多数室計算が必要になると考えています。
高反射高放射塗料のCO2排出削減量は、冷暖房機器のCOPにどのように影響されるのか?
高反射高放射塗料は、冷房需要を削減する一方で、暖房需要を増大させます。そのため、CO2排出削減量は、冷房需要起源のCO2排出削減量から暖房需要起源のCO2排出増大量を引いた数字となります。
冷房需要削減量と暖房需要増大量が等しい場合でも、冷房COPがよく、暖房COPが悪い場合、冷房需要起源のCO2排出削減量はさほど大きくならないのに対し、暖房需要起源のCO2排出削減量は大きくなります。
つまり、高反射高放射塗料のような技術は、CO2排出削減方策としてみた場合、冷房COPが悪く暖房COPがよい場合に効果的な技術であるといえます。
東京に導入する場合、塗料の塗り替えシステムとコストベネフィットのことが問題となるが、熱帯や年中太陽光の強い地域の場合での分析をおこなって、将来性を見るというのもおもしろいと思う。
昨年11月に発表した住宅に関しては、東京の場合と那覇の場合を評価してみましたが、確かに、このような技術の場合は低緯度地方の方が効果的であり、逆に高緯度地方では不利になってしまう可能性があります。
那覇だけではなく、低緯度途上国に対するシステムとして考えれば、気象条件的に有利である上、材工費の大半を占める人件費も削減できるので、評価してみると面白そうですね。今後の課題として考えています。
塗料を両面に塗布(片面は高反射高放射塗料でもう片面は低反射低放射塗料)したパネルの類を季節で裏返すという手法はどうだろうか?
切り替え機構というのは、現実的に考えて塗り替えることしかできないのではないだろうか?
冬季での導入切り替え機構を考えたい。
建築外表面の切り替えについて、今のところ、次の方策を候補として考えています。
いずれも経済性の点で見劣りするか、もしくは技術的な実現性の目処が立たないもののような気もしますが、今後の技術開発に期待するとして、とりあえず何らかの方策をとる予定です。何かよい案が思いつきましたら、是非、お教えください。宜しく御願い致します。
経済性以外の面における太陽電池などの他の技術との比較をおこなって欲しい。
太陽電池、緑化、屋根散水など他の技術の放射率・反射率はどの程度か? 高反射高放射塗料よりいい値を示す可能性はないのだろうか。
その他の建築外表面技術との比較について、太陽電池に関しては資料があると思うが、緑化や屋根散水はどのように考えるのか?
太陽電池は、屋根置き型か建材一体型か、どちらを考えているのか? また屋根置き型の場合、熱伝導に関してどのような計算をおこなっているのか。
まず今回の計算についてですが、高反射高放射塗料については研究対象としているため、きちんとした計算をおこなっていますが、太陽電池については、単に容易に比較できる技術として持ち出しただけですので、気象条件および建築条件から計算される発電量以外は全く評価をおこなっていません。
今後、発表の際に挙げたさまざまな建築外表面技術について評価を行っていきたいと思います。現在、評価をおこなうにあたって、問題となっている点は以下の通りです。
太陽電池や太陽熱集熱器のアクティブな性能(発電量や集熱量)に関してはかなり研究が進んでいます。しかし、熱的特性については、緑化について若干の研究例があるだけで、太陽電池も含めてどの技術もあまり評価がなされていません。
なお、それぞれの技術の長波放射率・日射吸収率に関してですが、緑化は、若干低反射率となるようです。屋根散水は当たり前ですが、従来と同じ値となります。緑化に関しては断熱および潜熱輸送、屋根散水に関しては潜熱輸送(緑化より効果的)という性質を利用して、省エネルギーにつなげるのが一般的です。
一方、太陽電池や太陽熱集熱器に関してですが、少なくとも太陽熱集熱器に関しては、黒色クロムメッキなどの選択反射性の物質が使われており、高反射高放射塗料とは対照的に低反射低放射となっています。太陽電池についてもほぼ同じなのではないかと考えられます。これら2つの技術に関してはすでに省エネルギー量に関する研究は進んでいますが、逆に屋内・周辺の熱環境に与える悪影響に関してはあまり研究がなされていません。
時間との勝負ですが、評価対象を絞って、不明な部分に関しては実験をおこなうことでパラメータを定めたいと思います。
太陽電池と高反射高放射塗料との併用の可能性はあるのか? 各技術の特性の差により併用も可能だと思うが。
コジェネレーションと併用するとどうだろうか。
残念ながら、高反射高放射塗料は、東京で通年利用すると、CO2排出量がかえって増大してしまう可能性があります。そのため、他の技術と組み合わせるとしても、まず高反射高放射塗料を夏季のみ用いるということが前提になると思われます。
まず、太陽電池との併用に関してですが、面白いと思います。太陽電池は低放射性の物質を使っていると思われますので、冬季の夜はそのまま太陽電池を用い、夏季の夜に関しては高反射高放射塗料を用いる、という選択肢はあるかと思います。中間に関してはおそらく太陽電池を用いた方がよいと思われます。
また、コジェネレーションと併用するという考えに関してですが、少なくとも相殺効果はあっても、相乗効果はあまり見込めないのではないかと思います。ただ、熱負荷のバランスや究極の省エネルギー量を考慮するならば、考えてみる価値はあると思います。