近年,世界的に,CO2排出量が増大しつつある.CO2排出量の増大は,地球規模の気候変動に結びつくと言われており,昨年の国際会議で,日本は温室効果ガス排出量の6%削減(1990年比)を義務づけられた.CO2排出を削減する方策はいろいろあるが,省エネルギーもその1つである.我が国では近年,産業部門の省エネルギーは進んでいるが,民生・運輸両部門の省エネルギーは進んでいない.
そこで,本論文では,民生部門,特に業務分野の省エネルギーに着目した.データを詳細に測定している国立環境研究所エコオフィス区域を取り上げ,応答係数法を用いた動的熱負荷計算および電力需要計算を行うことで,電力・エネルギー自給率の向上策について検討を行った.
まず,今回採用した動的熱負荷計算手法の検証を行った.除去熱量をデータとして与えて計算される室温と実測の室温を比較することで,検証した.その結果,2月においては相関係数が0.87となり,8月においても0.65と,まずまずの結果が出た.
以上によって,検証されたモデルを用い,現状のエコオフィスに導入されている省エネルギー対策の効果を計算した.その結果,断熱材の導入は省エネ策を全く導入しない場合に比べて,13.8%の電力需要・13.4%のエネルギー需要を削減していることが分かった.同様に,窓の断熱化はそれぞれ0.7%・0.7%,全熱交換機は16.5%・16.0%,ソーラーパネルは-3.3%・4.4%,太陽電池は20.0%・19.4%だけ削減しており,全て導入したエコオフィスは,48.9%の電力需要・54.5%のエネルギー需要を削減していることが分かった.
次に,エコオフィスの電力・エネルギー自給率を,いくつか省エネルギー対策が導入されている現状よりも,さらに向上させる対策について考えた.ここでは,比較的低効率である太陽電池の改善を取り上げた.シミュレーションの結果,現状では,電力自給率が29.3%(非売電時は26.7%),エネルギー自給率が35.5%(32.9%)と算出された.それに対し,既設の太陽電池を,現在商用で最高の効率である発電効率15%のものに取り替えたときは,電力自給率が80.1%(非売電時は49.2%),エネルギー自給率が86.0%(55.2%)に向上した.
エコオフィスは,建築物の総床面積の20%弱のスペースを占めるに過ぎず,建築物の屋根を全て使って上記の自給率しか向上できないとなると,現状では,エネルギー自律型オフィスビルの設計は難しいと言える.しかし,他にも,空調運転の最適化,各種空調機器の高効率化など,各所に改善の余地が残されているので,エネルギー自給率100%の環境調和型オフィスビルの設計も夢ではない,と言えよう.